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コンビニの青年

韓国料理屋の女将をしている女房は電動自転車で出勤する。歩いて行くこともある。雨や雪の日などはぼくが車で送り迎えをしている。
 店までの途中にローソンが二店舗あってそのあいだの距離は二百メートルほどしかない。どちらも経営者は同じのようで五人ほどいる店員はみんな両方の店に出ていた。女房は帰りによくこのローソンに寄っているがどちらかにということはなくどちらにも行く。両方の店に顔を見せる客はほとんどいないのだろう店員はみんな女房と顔なじみで女房の性格もあって気安くしていたがひとりだけはちがった。ぼくが迎えに行った日も帰りにローソンに寄ることがよくあるが店はやはりどちらとも決まっていなかった。


今日は朝からの曇り空が午後になってとうとう弱い雨になった。それで女房を送って行くことにした。そうだ迎えの帰りにローソンに寄ろう、あの青年が出ているかもしれない、と思った。あの青年とは唯一女房と気安くしていない店員でぼくが最後にかれを見たのは半年ほど前だった。

あの日入口のドアを開けて中に入るとあの青年がいた。床をモップ掛けしている。ほかに客はいない。こちらのローソンは半年ぶりで今日は青年が出ているような気がしていたから嬉しかったが女房は、ああっ、という顔をした。この人に当たっちゃった、とがっかりしたようだった。青年はこちらをチラっと見たが無表情で床掃除を続けた。
 ぼくらはセルフレジを利用しない。必ず店員を呼ぶ。女房は、わたしはだめだけどあんたはやり方を覚えてよ、と度々言うがぼくは、こんな味気ないものいやだね、といつも拒否した。ぼくは店というものは接客するものだと思っている。

 缶ビール、バナナ、サンドウィッチ、チョコレートなどを入れた籠を持ってぼくらはレジの前に立った。レジカウンターの内側にはだれもいない。青年は床掃除に専念していた。おねがいします、とぼくがだれもいないレジに向かって言うとぼくらの背後から青年が無言で現れてカウンターに入るとレジをくるりと回転させた。ぼくは青年に声をかけた。

久しぶりだね。
 ほんとですね、いつもむこうの店じゃなかったんですか。

 両方行くよ、ほらこないだの雪の日はこっちだったじゃないか。

 雪の日・・・、こっちでしたか。

 そうだよ、でもたしかにあっちへ行く方が多いかな。

清算がすっかり終わってぼくが、ありがとう、と言い続いて女房が、ありがとう、カンサムニダ、と言うと青年は、ありがとうございました、と言って頭を下げた。レジを離れるときぼくは、じゃ、また、と言った。すると青年はありがとうございましたを繰り返した。“雪の日”はぼくが青年とはじめて話した日だった。

ぼくがその青年をはじめて見たとき女房がうしろから、この人はよくないよ、と言った。接客が悪いというのだ。青年は大学生のようだったがなかなかのイケメンでしかしなるほど不愛想な感じでその無表情はどうかすると不機嫌そうにすら見えた。ぼくは青年の無表情に興味を持った。それは、この子はどうしたんだろう、怒っているはずはないが、クールと言えばクール、しかしほんとうはこの見かけとは違うんじゃないのかな、となんとなく感じたからだ。そして三度目だっただろうか雪となった寒い日の夜、思い切って話しかけてみた。雪が切り出すのにちょうどよかった。

寒いね、外は雪だよ。
 寒いですね、少し前から降りはじめましたね。

 この雪は積もりそうだ。

 そんな感じですね、駐車場の雪かきをしないといけません。

 そうだね、たいへんだね。

 だいじょうぶです、のんびりやりますよ。

 じゃ、がんばって、ありがとう。

 ありがとうございました。

ぼくと話す青年の顔は明るく楽しそうに見えた。やっぱり見かけとは違ったとぼくは嬉しかった。車に戻って、ほら、普通の子だよ、見かけはとっつきにくいけど話してみればよく話すじゃないか、と女房に言うと、たしかに、でもわたしはちょっと・・・、と女房はやっぱり苦手な様子だった。ぼくはセルフレジが嫌いだが、青年も同じなんじゃないかなと思った。


女房を送って行く時間になった。下に降りていくと女房は庭に出ていて、止んでるよ、と言う。外に出てみると夕方の空を雲がすっかり覆っていたが雨は降っておらず西の空は明るかった。女房はやっぱり自転車で行くと言う。自転車で行くのは運動のためもあったから女房はいつもできる限り自転車で行こうとした。帰りに雨なら迎えに行くから、とぼくがサドルに跨った女房に言うと、降り方がひどかったらね、と言ってペダルに足をかけた。

コンビニの青年にあの日、じゃ、また、と言ったその“また”はまだ果たせていない。 2026年10月4日 虎本伸一(メキラ・シンエモン)



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